青 い と か げ と 鈴 蘭

 北の野に、遅い春が来ました。キンポウゲの黄や、花ニラの白や、さくらそうの薄桃や、とりどりの色がいっせいに野を染めました。花を咲かせない草たちも、ヒスイのような若芽を我がちに芽吹かせて、野原は急に、にぎやかになりました。
 そのにぎやかな野原のひとすみに、平たい石があって、そこに一匹の、青色のとかげがいました。石の上にながながと体を伸ばして物憂げに目を閉じて、せっかく咲いた花々にも、注がれる暖かな日ざしにも、まるで興味がなさそうでした。時折、尖った口の先から吹流しのように、細い舌をちろりと出し入れしましたが、その様子も、いかにもつまらなそうでした。
 この青いとかげは、前の秋、奥さんだった緑色のとかげを亡くしたばかりでした。ひとりぼっちのまま冬を越して、そうしてつい数日前冬眠から覚めたのでしたが、ひとりきりではやっぱり何をするにもつまらなくて、日なが石の上に寝転がっては、こうやってひなたぼっこばかりしているのでした。
「ああ、おれは何だって目を覚ましてしまったものかな」
 またちろりと舌を出し入れして、青いとかげは、冬眠から覚めてからもう、数え切れないほどこぼした愚痴をまた、繰り返しました。
「夢の中では何もかも忘れたままでいられるのに。たとえ体が枯葉のように干からびたとしても、あのままずっと眠っていた方がどれほどましだったか分からない」
 ほう、と、やるかたないため息を洩らした時、顔の上を影がすうっと横切って、青いとかげは金色の目を片方、開きました。見れば、影の主は蝶でした。黄色に黒い斑紋を一つ置いた美しい羽をひらひらと動かして、青いとかげの寝ている石のかたわらに茎を伸ばした菜の花の先にすいと止まりました。
 昨日の晩から何も食べていなかったことを思い出して、青いとかげは急にお腹がすいて来ました。青いとかげはそろそろと体の向きを変え、花に止まった蝶の真下へと這って行きました。花びらや葉に邪魔されて、蝶はとかげの姿に気づいていないようでした。黄色い羽をたたんで口を伸ばし、夢中で蜜を吸い始めました。
 と、丸く見張った金色の目がきらりと光ったと思うと、青いとかげは二本の後足に力をこめて飛び上がり、蝶のやわらかなお腹に一口に食いつきました。蝶は驚いて細い足をもがかせ、羽をばたつかせましたが、青いとかげは顎に力を入れ、やがてひと飲みで蝶を飲み込んでしまいました。咽に、ほのかに蜜の香りがしました。顔に振りかかった羽の粉もきれいに舐め取って、青いとかげはようやく、満足げに吐息をつきました。が、その息は、吐ききらぬうちにもう、鬱々とした嘆息に変わっていました。
『夢の中にいた時には思い出しもしなかった寂しさが、目覚めてからは日々つのって行くのはなぜだろう。もしかして、こうやってものを食うからなのかな。おれが獲物を捕えて食えば食うほど、おれの中に巣食っている孤独というやつがどんどん肥えて行くのだろうか。松葉みたいになるまで食わずにいたら、寂しさも枯れしぼんでなくなるかな。本当にそうなら試してみるんだが』
 石の上に元どおり腹ばいになって、そんなことを取りとめもなく考えるうちに、春の日は西へ傾きました。冬が去ったと言っても北国のことですから、日が落ちてしまうと辺りは急に寒くなりました。お腹に石の冷たさが沁みて来て、青いとかげは慌てて立ち上がり、石の下に掘った巣穴に戻りました。
 巣穴はいつもよりもずっと広く見えました。もともとここは緑のとかげと二匹で住んでいた穴でしたから、一匹で使うにはそもそも広すぎるのでしたが、それにしても薄暗くなった巣穴はいつにも増して広く、片側の壁に身を寄せて寝転ぶと、もう片方に歯の抜けたように空いた隙間が、やりきれないほどに広く感じられるのでした。
 緑のとかげと住んでいた頃、二匹は鼻の先を穴の入り口から少しだけのぞかせて並べ、外の匂いを嗅ぎながら休むのが好きでした。そうやって体を横たえて、二匹はそれぞれ、その日あったいろいろな出来事を教え合いました。青いとかげは、友だちのとかげと一緒に人間の小屋に忍び込んだことなどを話して聞かせました。緑のとかげは、ザクロの木の根元に鳥が巣を作って卵を産んでいたことなどを、ルビーのように赤い、きれいな目を輝かせて話しました。
 こんなふうにあれこれお喋りする夕暮れが、二匹には一日のうちで一番楽しいひと時でした。
 けれども時々、一方が話している間に、もう一方がつい、うとうとと眠ってしまうことがありました。そんな時、青いとかげは話すのをやめて、静かに緑のとかげを眠らせてやりました。緑のとかげは、青いとかげの鼻先を軽く噛んで起こし、話を続けました。
 こんな思い出があとからあとから心に湧いて来て、青いとかげはその夜少しも眠ることが出来ませんでした。
                  
*

 次の日、青いとかげはいつものように巣穴から這い出ると、しかしいつものように石の上にはのぼらずに、やぶをかき分けて、巣穴の方は振り返りもせずに歩き出しました。どこか新しい巣を捜そうと、青いとかげは決めたのでした。
「そうだ、ぶどう色の花をつけたエビネのやぶに住もう。根元の地面に居心地の良さそうな穴があったはずだ」
 けれども行ってみると、その穴にはもう、縞模様の蛇がすみかを構えていました。
「それなら、イカリソウの白い花の近くに住もう。温かそうな切り株があったはずだ」
 けれども行ってみると、切り株には、まだら模様をしょったヤモリの親子が住みついていました。ぶらぶらと歩き回るうちに青いとかげは、とある木の根元に来ていました。それは白く立ち枯れたニレの木でした。
『この木の枝先に住むというのはどうだろう』
 葉の一枚もない、寂しい大きな影を見上げて、青いとかげは思いました。
「雨が降ればびしょ濡れに濡れる。風が吹けば木の葉のように揺れる。こんな場所にはまさか先客はいないだろうからね」
 木の皮のでこぼこに爪を引っかけて、青いとかげは幹をよじ登って行きました。枯れてから何年もたっているのか、ニレの木肌は乾ききっていて、つるつるとすべりました。何度もまっさかさまに転げ落ちそうになりながら、青いとかげはようやく梢のてっぺんまで登りました。
「これは、素敵だ」
 細い枝先につかまって、下に広がる野原を見渡して、青いとかげはひとり、つぶやきました。
「どうだろう、この広々とした眺めは。およそとかげに生まれて来て、こんな眺めを見たのはおれぐらいのものだろう。エビネの心地良い穴倉も、イカリソウの温かな切り株も皆つまらない。あんなものは奴らにくれてやるさ」
 そう強がって、しかし心の中では、一言喋るはずみに枝が今にも振り落とされそうにたわむのでひやひやしながら、とかげはぐるりと野原中を見渡していましたが、おやと金色の目を見張りました。
 遥か遠く、野原の向こうに何か建物が見えたのでした。建物と言っても、それは野原の周りにぽつぽつと立つ農夫の小屋とは、ずいぶん様子が違っていました。形は四角くて、わらぶきの三角屋根も乗っていませんでした。壁は泥壁ではなく頑丈なレンガ積みで、小さな窓が規則正しく並んでいました。青いとかげには分かるはずもありませんでしたが、それは、この冬の間に建てられたばかりの、療養所の建物でした。
 眺めていると、建物の入り口にちらりと影が動きました。ずんぐりした体を黒い外套に包んだ男が二人、大きな、長い箱を二人がかりで建物から運び出して来ました。野原の方まで出て来ると箱を放り出して、そばの地面を、生えている草ぐるみ、掘り返し始めました。どうやら、運んで来た箱を埋めようとしているようでした。
「食べ物を埋めるのかな」
 不思議な眺めに小首をかしげかしげ、青いとかげはつぶやきました。以前、とある秋の日、耳の先に立派なふさ毛のついたリスが、土にせっせとドングリを埋めているのに出くわしたことを思い出したのでした。どうしてかと尋ねると、リスは、こうしておけば冬の間に目が覚めた時、掘り出して食べることが出来るのだと、冬毛のふさふさした尻尾にもたれながら教えてくれたのでしたが、
「しかし、これから暖かくなるのに、わざわざ食べ物を埋めておかなくともよさそうなものだが。それとも何か、よほど大事なものなのかな」
 いつだったか、知り合いのカラスの巣を訪ねた時、宝物だと言って土の中から宝石のきらきらした指輪や、この辺りでは珍しい色とりどりの貝殻などをたくさん掘り出して見せてくれたことを思い出しながらつぶやいているうちに、向こうではすっかり、穴は掘りあがっていました。
 男たちは箱を抱え上げて穴に下ろし、上に手早く土をかぶせました。草の陰から、白く塗られた十字架を拾い上げて土に立て、やれやれといった様子でまた建物に入って行きました。
 男たちが去ってしまうと、療養所の庭はまた、しんと静かになりました。さらさらと揺れる草の間に、十字架が静かに光っているばかりでした。
「きれいなものだなあ」
 青いとかげは何だか感心しました。近くまで行って、あの、白く光っているものをもっとよく見てみたいように思いました。と、
『行ってみましょうよ』
 耳元に、緑のとかげの声がした気がしました。もちろんそれは、ちょうど吹いた風に野原のやぶが揺れた葉音がそう聞こえただけでした。けれども、もしここに緑のとかげがいて、一緒にあの白いものを見たならば、彼女はやっぱりそう言うだろうと、青いとかげにはそんなふうに思われました。
「しかしあそこに行き着くには、この広い野原を越えて行かにゃならんのだぜ。おれたちのちっぽけな足じゃ、一生分、かかるかもしれんよ」
 まるで隣に本当に、緑のとかげがいるかのように、青いとかげは言ってみました。今度は、緑のとかげの声は聞こえて来ませんでした。青いとかげはしばらく、小さく光る十字架を見ていました。しかしやがて、くるりと向きを変えて、登って来たよりももっと危なっかしい足どりで、枯れ木を下りました。そして雲を見上げて方角を確かめてから、やぶをかき分けて療養所へ向かって歩き始めました。
                  
*

 青いとかげは歩き続けました。日が暮れると手近なやぶの間に一夜の巣を作って眠り、日が昇るとまたやぶをかき分けて歩きました。やぶの中からは蝶を捕まえるのは難しかったので、お腹がすくと地面の穴を見つけてはほじくり返し、驚いて飛び出して来たアリを舐め取って食べました。そうやってせっせと歩き続けましたが、二日たっても、三日たっても、あの白い十字架はなかなか見えて来ませんでした。
「おれは何か、途方もなく馬鹿げたことをしているのかもしれんぞ」
 青いとかげは時々、足を止めてはつぶやきました。
「あれは、おれが考えたよりもずっとずっと遠くにあるんじゃないだろうか。行き着くより先に、本当に、おれの一生の方が終わってしまうかもしれん。くたくたになるまで歩いて、食べ物と言えば酸っぱいアリばかりで、こんな難儀をしてまで行ってみる値打ちがあるものなんだろうか」
 エニシダの茂みの下に腰を下ろして、尻尾の先を噛みながら青いとかげは首をひねりました。エニシダは黄色い花の盛りで、茂みの下には強い匂いがぷんぷん漂っていました。
「もう、あきらめて帰ろうか。いや、それもやめにして、この、エニシダの下にこのまま巣穴を構えた方がいいかな」
 ため息をついた時、
『あきらめないで、もう少しだけ行ってみましょう』
 風にエニシダの茂みが揺れて、葉音が、耳元で緑のとかげの声になりました。茂みが囁いたその言葉に、青いとかげは聞き覚えがありました。
 ある日、緑のとかげが、野薔薇の茂みに花が咲いたのを見に行こうと、青いとかげを誘ったのでした。緑のとかげが友だちから聞いて来たとおりの道をたどって、二匹は出かけたのでしたが、どこで道を間違えたのか、いくら歩いても、薔薇の茂みは見えて来ませんでした。
「もう、帰ろう」
 もともとあきっぽい青いとかげは、たびたび立ち止まっては、緑のとかげに言いました。
「もう帰るの? あきらめないで、もう少しだけ行ってみましょうよ」
 青いとかげが立ち止まって文句を言うたび、緑のとかげは、鼻先で青いとかげの背中を押しながら、そう言ってなだめたのでした。
「どうも思い出せない。あの時は、結局、野薔薇は見つかったんだったかなあ」
 ぼんやりと空を眺める青いとかげの目は寂しそうでした。風に揺れたエニシダの枝が、背中に触れました。それはあの日、緑のとかげが鼻先で背中を突いてなだめた、その感じにそっくりでした。
「しょうがないな。じゃあ、もう少し、行ってみるか」
 疲れた足をさすって、青いとかげは立ち上がりました。
「お前の可愛らしいわがままにおれはたびたび、困らされたものだったが。でもお前は死んでからも、こうやっておれを振り回すんだな」
 青いとかげは笑おうとして、ふと、こんな冗談を言ってみました。けれども途端に、笑おうとした目からは、笑みの代わりに大粒の涙が溢れ出しました。青いとかげはその場に泣き伏しました。大声を上げて、青いウロコがびしょ濡れになるほど泣いて、そのまま泣き疲れて眠ってしまいました。
 次の日目を覚ますと、太陽はもうかなり高くなっていました。昨日あんまりひどく泣いたせいで、頭がずきずき痛みました。青いとかげは、そばに生えていたヨモギの若芽をちぎって噛みました。ほろ苦いヨモギの汁のおかげで痛みがやわらぐと、青いとかげはまた、あの療養所をめざして歩き出しました。
                  
*

 ニレの根元を出発してちょうど五日目のお昼近く、青いとかげはようやく、梢から眺めた十字架にたどり着いたのでした。あの時と同じように、療養所の庭はひっそりと静まり返っていました。人の姿もない草の中に、十字架がぽつんと白く立っていました。
 青いとかげは十字架を見上げました。周りをぐるぐる歩き回りながら、とみこうみ、眺めてみました。けれどニレの木から遠目に見た時ほどには、きれいには見えないような気がしました。立てた時と比べると、十字架はもう、少し傾きかけていました。また塗られてある白いペンキも、塗り方が粗末であったとみえ、あちこちがもう、剥げかけて来ていました。
「これだけのために、おれはここに来たのかなあ」
 青いとかげは後足で立って、十字架の、何となくべたべたする感じのペンキに触ってみました。
 よく見ると、同じような十字架が、周りには何本か、立っていました。みなペンキがすっかり剥げて、木も黒ずんで、中にはもう少しで地面に着きそうなほど、傾いでしまっているものもありました。
 と、その時。草の向こうに足音がして、大きな影が動きました。青いとかげはびっくりして、大急ぎでそばに生えていた雑草の葉の陰に隠れました。
 様子をうかがっていると、やがて草を踏んで現れたのは、一人の若い男でした。狐色の、汚れたルバシカを着て、髪が泥のように黒く、頬は痩せて頬骨が尖っていました。けれども目はおだやかで、優しそうでした。ここに穴を掘って十字架を立てた、黒い外套の男たちとも、家に忍び込んだとかげを見つけるなり、わら束をつかんで追い回す農夫とも違った人間であるように、青いとかげには思われました。
 その若い男は、青いとかげが今しがたまで眺めていた、真新しい十字架の前にしゃがむと、そばの土をせっせと掘り始めました。何をするのかと見ていると、男は、掘った穴に、抱えて来た植物の苗を植え込みました。根元に丁寧に土を寄せ、両手でしっかりと固めました。
「――お前は、鈴蘭が好きだったね」
 低いつぶやきが聞こえました。それはひどく悲しそうで、青いとかげは思わず、草の陰から顔を出して、男の方を見上げました。けれども若い男はもう、立ち上がってくびすを返していました。ざくざくと草を踏んで立ち去る男の後ろ姿を、青いとかげは、後ろ髪を引かれるような気持ちで見送りました。
 翌日、青いとかげは鈴蘭の葉の下で昨日の若い男が来るのを待っていましたが、男は来ませんでした。その翌日も、またその翌日も、療養所の庭に作られた、このみすぼらしい墓地を訪れる者はありませんでした。男が植えて行った鈴蘭だけが、緑の葉を揺らしていました。葉には、白い斑(ふ)が、つややかにふちを取っていました。そして葉の集まった真ん中からは細長い茎が伸びていました。茎の先には薄緑色の丸いつぼみが固まっていました。
「どんな花が咲くんだろう」
 鈴蘭というものを見たことのない青いとかげは、物珍しそうに、まだ固いつぼみを見上げました。
 それからというもの、青いとかげは庭番のように、毎日鈴蘭の様子を見守りました。雨が墓地の土を跳ね上げて通り過ぎたあとは、葉についた泥を舐め取って、きれいにしてやりました。お腹をすかせた青虫が葉を食べに来ると、一匹ずつ、そばのやぶに追い出しました。つぼみは一日ごとに大きくなり、それにつれ、茎は釣竿のようにしないました。茎が折れそうに思われて、青いとかげは、枯れて倒れていたあざみを立てかけて、添え木にしました。
 なぜと言うこともなく、青いとかげは、あの、髪の黒い若い男は、もう二度とここへは来ないのだという気がしてなりませんでした。そう思うとなおさらに後ろ髪が引かれて、この花が咲くのを、男の代わりに見届けてやらないと気がすまないような、そんな心持ちが、青いとかげにはしていたのでした。
 一日が過ぎて日が沈むと、空には月が昇りました。月は夜ごとに丸く満ち、そして月が満ちると共に、鈴蘭のつぼみもだんだんと白く染まりました。それはまるで、空と、地面とに、二つの月が浮かんでいるようでした。青いとかげは草の寝床に頬づえをついて、じっと二つの月を見守りました。
 そうして幾晩が過ぎました。いつものように草にくるまってうとうとしていた青いとかげは、ふと、何か甘い香りに誘われて目を開けました。不思議そうに辺りを見回した青いとかげは、はっとして起き上がりました。
「花が咲いている」   
 釣竿のような茎の先に、鈴によく似た真っ白な花が四つ、可愛らしく並んで咲いているのでした。月は満月でした。昼のように明るい月の光を浴びて、鈴蘭の花は夢のように輝いていました。  
 青いとかげは葉っぱにつかまりながら伸び上がって、花に接吻しました。甘い香りが顔にふりかかって、青いとかげは思わず、小さなくしゃみをしました。鈴蘭の花々は笑ったように、いっせいにさらさらと揺れました。
「ああ、あいつにも見せてやりたいなあ。こんなきれいな花を見たら、なんて言うだろう」
 鈴蘭は白く揺れるばかりでした。青いとかげは、少しわがままだった、でもとても優しかった緑のとかげのことが、無性に懐かしく思い出されました。そして何だか、死んだ彼女が可愛い花になって、自分に会いに来てくれたように思われてなりませんでした。優しい気持ちでいっぱいになって、明るい月の下、青いとかげはいつまでも、白い鈴蘭の花を見ていました。

―了―


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