あとがき

 根拠があるわけではありませんが、晩年の大内義隆は、躁鬱病のような精神的病を抱えていたのではないかと思うことがあります。義隆は天文十二年(一五四三)の出雲月山城攻めの際に嫡子晴持を亡くし、以来政に無気力になったといいます。しかし、家臣団や領民の心が自分からどんどん離れて行き、かつては最も信を置いていた筆頭家老陶隆房の謀反の噂すら日に日に高くなる中でさえ、家族や自身を守ることにまるで消極的に見える義隆の様子は、理解し難いところもあります。状況判断の甘さ、長きに渡る安定を築いて来た大内家の統治形態への間違った信頼、そう言うことも出来ますが、やはりどうしても、何か、義隆自身にも如何ともし難い闇に引きずられていたような、そんな気がしてなりません。この「夢魔草子」は、義隆が躁鬱病を病んでいたと仮定し、内面を覆う闇を描いてみた作品です。この前に書いた作品が「雪梅」で、もともとはその作中において、義隆が心を病んでいる様を色々描写したのですが、投稿するにあたって、枚数制限の関係上、全て削ってしまったのです。そのまま捨ててしまうのも惜しく思われ、一つの別な作品として書き直してみたのでした。


参考資料
■福尾猛市郎 「大内義隆」 吉川弘文館
■永原慶二 「日本の歴史14 戦国の動乱」 小学館
■杉山博 「日本の歴史11 戦国大名」 中央公論社


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